巨大磁気抵抗 (Giant Magneto Resistance 略して GMR)

近年,2種あるいはそれ以上の金属を数〜数十原子層ずつ交互に積層した人工格子の研究が盛んにおこなわれている.この人工格子には従来の合金や化合物ではみられなかった多くの物性が発見されている.その中でも特に強磁性/非磁性層からなる系では従来の合金(例えばパーマロイ)の数十倍に達する磁気抵抗効果が見出され,巨大磁気抵抗効果(以下 GMR)として基礎・応用の両面から精力的な研究がおこなわれている.このGMRは1986-1988年にFertらによってFe/Cr人工格子で発見されたのを皮切りにCo/Cu,続いて(Fe,Co,Ni及び合金)/(Cu,Ag,Auなどの貴金属,Cr,Ru,Vなどの遷移金属)で見出されさらに広がりをみせている.
磁気抵抗とは物質の電気抵抗が磁場に依存して変化する現象であり,磁性体や半導体で一般的にみられる.例えばFe, Ni, Coなどの遷移金属合金では電流の方向が磁化の向きと平行な場合(縦磁気抵抗 ρl)と垂直な場合(横磁気抵抗 ρt)とで抵抗値が異なる異方性磁気抵抗(Anisotropic Magneto-Resistance 略して AMR)を示す.このAMRの抵抗変化率Δρは(ρl-ρt)/(ρl+2ρt)で定義され,室温で数%のオーダーである.その起源としては,伝導電子の散乱確率がスピン軌道相互作用によってスピンと電流との相対的な角度に依存することから生じるものと考えられている.これに対して人工格子でみられるGMRは異方性は示さず,その起源はAMRとは明らかに異なっている.GMRの抵抗変化率Δρは(ρnap-ρap)/ρapであらわされ(ゼロ磁場付近での抵抗率をρnapとし,磁場をかけたときのそれをρapとする),Co/Cu合金では30%にも及ぶ.GMRが現れるためには非磁性層をはさんで隣り合う金属層の磁化がゼロ磁場で反平行に配列していなければならない.そしてこの反平行に配列した磁化が磁場の印加により平行に揃う過程でGMRは出現する.この原因は現在,伝導電子のスピンに依存した散乱過程に基づいたモデルで説明されている.下の図はこれを模式的に示したものである.



伝導電子の抵抗率を上向きスピンと下向きスピンをもつものとにわけて考えると,その大きさはスピンの向きによって異なる.印加磁場によって強磁性層の磁化がそろうと磁化と同じ向きのスピンをもつ伝導電子が優勢となり,磁場が十分大きいところでは試料全体の抵抗率は最小となる.一方,ゼロ磁場近傍では強磁性層の磁化は反平行に配列しているので伝導電子のスピンの向きが磁化のものと同じであっても,隣の層では逆向きとなり,電気伝導には抵抗率の高いスピンをもつ伝導電子が支配的になる.この場合,試料全体の抵抗率は最大となる.このようにGMRは現象論的に説明されているが,このスピンに依存した散乱のメカニズムについてはまだ明らかにされていない.
この系では強磁性層と非磁性層が交互に繰り返されているために,磁気抵抗は非磁性層の厚さによって振動することが見出されている.これと付随して強磁性層間の磁気結合の大きさにも非磁性層の厚さに依存した振動構造が見出され,大きな問題として注目されている.この層間磁気結合の起源として非磁性中間層とのRKKY相互作用を用いたモデルと量子井戸にもとづくモデルのふたつが有力である.
ここでは強磁性/非磁性層からなる人工格子でのGMRを説明したが,これら以外にもグラニュー2相分離合金や強磁性体/絶縁体/強磁性体のサンドイッチ膜でもGMRが観測されている.

<参考文献>
藤森啓安,高梨弘毅,三谷誠司:日本応用磁気学会誌 19, (1995) 4.
高梨弘毅,藤森啓安:固体物理 28, (1993) 637.
宮崎照宣:日本応用磁気学会誌 16, (1992) 615.
新庄輝也:日本応用磁気学会誌 31, (1992)796.



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